アルバイト時代、風で飛んできたカツラに「いらっしゃいませ」と言った話

 

理解に苦しむタイトルですみません。

分かっています、あなたの頭の中に大きなクエスチョンマークがあることは。ひとまず説明するお時間を私にくださると幸いです。

 

私、某レンタルDVDショップで2年半アルバイトをしておりました。最初は転職の繋ぎとして始め、その後就職してからも掛け持ちでズルズルと続けていました。

「レンタルDVDショップ」というとご存知の通り、DVDがレンタルできるお店のことです。私がいるショップには、ゲーム、CDなどの取り扱いもあり買取も可能でした。

働いていた時間帯は深夜帯。昼間と比べ夜間は比較的変なお客さんが多くいます。「人間ってこんなに面白いんだ」と感じたのはこのアルバイトのおかげでした。

 

思い返せばツッコミどころの多いエピソードが多かったことに気づきました。その中でも一つ、印象的なエピソードがあるのですが、ちょっと思い出すだけで赤面してしまうので、発散も兼ねてちょっとご紹介させてください。

 

 

風に吹かれて入店したカツラに「いらっしゃいませ」と言った話

「カツラ」と聞くと赤面してしまいます。それはこのエピソードが原因です。

 

時刻は夜中の2時過ぎだったと思います。風が強くびゅうびゅうという音が外から漏れてくる日でした。

私はレジに突っ立ていました。隣には新人のスタッフさんが一人。「暇ですね」「…暇ですね」とお互い声を掛け合いながら、呆然としていました。

時間帯が深夜だったこともあり店内のお客さんはゼロ。今流行りの音楽が有線ラジオで店内に鳴り響いています。

 

入り口のドアが開く音がしました。
「いらっしゃいませ!」と声をあげます。新人の頃は挨拶も緊張していたのですが、慣れてくるとドアが開く音に反射的に挨拶の言葉が出てきます。それはごく自然なこでした。慣れってすごい。

しかし、誰も入ってきません。風でドアが誤作動したのでしょうか。

 

そのとき、なにやら黒い物体が地面をするするするとスライドしながら入店してきます。そしてそのまま奥のDVDコーナーの手前で停止しました。

あまりに速すぎたので何か分からなかったのですが、黒くてふさふさ?していたことだけは確認できました。「なんだろう?ゴミかな」

 

黒いふさふさした物体のこと

その後のことはあまりにも一瞬の出来事で理解するのに時間がかかりました。

 

まずスーツ姿の男性が早足で入店→奥のDVDコーナーに行き→黒いふさふさした物体を拾い→さらに奥に消えて行きました。

 

どうやらそのシーンを新人さんも見ていたらしく、お互い顔を見合わせながら目をパチパチとさせます。

 

その黒い物体がカツラだったことは、直感ですぐに分かりました。

スーツの男性のカツラが風で飛ばされたということでしょうか。直後、私は手に持っていたDVDケースを床に落としてしまいディスクがコロコロと転がりました。

幸いにも裏面が上に向いたのですが、床にぴったりと収まったディスクを指先で拾うのは案外難しく、短い爪で必死に拾い上げようとしました。

私は無言で爪でディスクを引っ掛けながら先ほどの出来事を整理しました。

 

  • 「あの時いらっしゃいませと言ってしまったことで、あの男性は入店を迷ったのではないか」
  • 「私がいらっしゃいませと言わず見て見ぬ振りをすれば、あの男性は羞恥心を感じずに済んだのではないか」
  • 「いや、むしろあの男性はなにも感じていない狂人な心の持ち主であるかもしれない」

 

そんなことをぐるぐると考えながら、あの人も私と同様、羞恥心を感じながら必死に頭で思考していたのではないか。カツラを拾う瞬間、死にたくなるほどの恥ずかしさを感じたのではないか。

 

あの時の失態が私をひどく苦しめる

あまりにも予想外なことが起きると人は硬直する以外の選択肢がありません。

ほどなくして新人さんに「大丈夫ですか?」と声をかけられ、私は「あの人がですか?」と返すしかできませんでした。

 

これまでの長い歴史の中で、後にも先にもカツラに「いらっしゃいませ」と声をかけたのは私だけではないでしょうか。

 

それからというもの「カツラ」というワードを見たり聞いたりしただけで、あの時のエピソードを思い出します。

店内に寂しく響き渡った私の「いらっしゃいませ!」という声が私の頭の中でこだまします。

 

もっと恥ずかしいのはあの時のスーツの男性なのでしょうけど。それが分かるぶん、私たちがあの時どうすることもできなかったことが悔やまれるのです。

 

ごめんなさい。

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